「ほな、そういうことにしときまひょ。」
小田は、目が点になった阿部プロデューサーをしり目に、部屋から出てジムへ向かった。

ツアーが例年になくハードで、しかも天変地異もあり、クリスマスの約束のリハーサルは遅々として進まなかった。
それにも増して、いつもの変わり映えのしないメンバー構成に、心の片隅にこれでいいのか?…と疑問が湧きつつあったのだ。視聴者はこの状態で満足してもらえるのだろうか?
「ちがう きっとちがう…。」小田の心が叫んでいた。
オレが疑問を持ったまま演奏しても、視聴者は敏感にそれを感じ取るはずだ。
そう自問しながら、阿部との打合せや、メンバーとのリハーサルをこの夏から続けていたのだった。

11月のある日、ついに堪忍袋の緒が切れた。
小田は自分の考えを吐き出した。
「クリスマスの約束はもうマンネリやわ。それより違う企画がしたい。」
「今から変更ですか?何か妙案でも?」
「No Planやわ。」
「小田さん、冗談はよしてくださいよ~。」
「誰のせいでもない。自分が小さすぎるから…。みんなのやる気満々の顔を見てたら、なかなか言い出しにくかってんけど、もう我慢の限界や。リハをしてても乗れへんし、年明け早々の大阪城ホールの振替公演のことも頭から離れへん。…ん?お、お、大阪城ホール?…そや、それやがな、それそれ!」
「小田さん、何か思い付きはったんでっか?」
「大阪城ホールでライブ中継や!」
「え~?スタジオでミュージシャンが集まって楽しく歌いまへんのん?」
「そやった、来年1月の大阪城ホール振替公演のライブ中継を全国に放映したら、このツアーを見に行けなかったみんなに、観てもらうことができるがな。」
「ライブ中継でっか~。それなら会場の手配や、観覧者募集も、大量のハガキを読む必要もなく、会場に放送機器を持ち込むだけで済みますわ。なによりすごい視聴率になりそうでんな。」
「わしも、たまにはええ事、言うやろ?」
「そうでんな。」と生返事をしながら、ライブ番組のスポンサー収入と、ライブビデオ販売の売上の皮算用をしていた。

「なにあれ?」誰もが口々につぶやいた。大阪城ホール裏手の駐車場にツアートラックと共に数多くの地元MBS毎日放送の中継車が停まっていた。
「TBS 特番収録お知らせやて?わ、このコンサートが春に放送されるんや。えらいこっちゃ、会社を仮病でずる休みしたのに、テレビに映ったらヤバいがな!」
「わたしも、田舎の親戚が危篤って…。」
ほうぼうで、てんやわんやの大騒ぎ…。
近くのコンビニでは、あっという間に変装用マスクは売り切れ!
箱買いして、ばら売りするチャッカリ者も出る始末。
「マスクどうでっか?1枚100円やで~。」
「おっちゃん、ええ商売しとるな。」
「おおきに。チケット転売がでけへんから、これからマスクの転売しまっさ。」
思わず声をあげて歌い出した。
♪うれしくて~ うれしくて~ 言葉に~ できな~い~♪

おしまい

TBS系列のMBS毎日放送の中継車が大阪城ホール振替公演当日に停まっている?

早速、読者の皆さんからコメントを頂きました。
麦津詐欺師さん:すばらしい着眼点。ただ、何が言いたいのかさっぱりわからん。
阿部阿部部さん:こんなにいい企画ならもっと早く言ってよ~。
悪口秤さん  :妄想小説も回を追う毎に質が低下している。以前の作品なら読後にホロッとさせるものもあったが…。
不安歴五十年さん:♪言葉にできない♪の歌詞を所々に挿入し、「ウケ」を狙っている下心がアリアリだ。小田さんのファンを怒らしたら怖いで~。
用意周到さん :念のため、1月の大阪城ホール公演は、マスク持参で参戦します。

以上、熱いご感想、ありがとうございました。